薬と医療制度~「薬価制度とは」~

日本では、医療用医薬品の価格について、製薬企業ではなく国が定める「薬価制度」をとっています。他の一般的な商品やサービスとは価格の設定方法が大きく異なるため、価格がどのように定められているかイメージを持ちにくいのではないでしょうか。
そこで、今回は薬価制度について説明します。

薬価とは

医薬品は、医療用医薬品とOTC医薬品の2つに大別されます。医療用医薬品とは、医療機関などで医師から処方される薬のことです。一方、OTC医薬品とは、処方を必要とせず、ドラッグストアなどで購入することができる薬のことです。
保険医療で用いられる医療用医薬品は、国が価格を定め、「薬価基準」に収載されます。2018年3月時点で薬価基準に収載されている医療用医薬品は、約15,000品目となっています。
一方で、OTC医薬品の価格は製薬企業が定めることができ、薬価基準には収載されないため、OTC医薬品の価格を薬価とは呼びません。メーカー希望小売価格や販売価格など、一般的な商品と同じ呼称となります。
このように、薬価基準に収載された医療用医薬品の価格を薬価といいます。

薬価の設定方法

それでは、国はどのように薬価を決めているのでしょうか。ここでは、薬価を定めるための基準をいくつか紹介します。

新薬の薬価算定方法

製薬企業は、新薬を開発してもその医薬品が薬価基準に収載されるまでは販売することができないため、国に対し薬価基準収載の申請を行います。申請を受けた国は、次のような算定方式に沿って薬価を定め、製薬企業へ結果を通知します。
1.類似薬効比較方式
新薬と同じような効果を持つ医薬品(以下、類似薬)が既に存在するかどうかを調査し、類似薬が存在する場合は、類似薬と大きな価格の差が生じないように調整します。ただし、類似薬と比べてより優れた効能や安全性など、高い有用性が認められる場合は、価格の加算をします。
2.原価計算方式
新薬に類似薬が存在しない場合は、原材料費や製造経費などから算出します。既存の治療と比較した場合の有用性の程度に応じて、営業利益の予測額を加算します。
3.外国平均価格調整
新薬の薬価を定める際は、諸外国と大きな価格の差が生じないように価格を調整します。比較の対象国は、「自由価格制度」をとっているアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスです。各国の価格の平均額と比較して、大きな差が生じないよう基準値を設けています。

既収載医薬品の薬価改定

一度定められた医薬品の薬価は不変ではなく、2年に1度の定期的な見直しが行われます。この価格の見直しを「薬価改定」と呼び、原則として改定の度に薬価は引き下げられます。薬価が引き下げられる理由は、新薬が発売された後に類似の新薬が薬価収載されたり、ジェネリック医薬品が薬価収載されたりすることで、希少性が低下し新薬としての価値が下がるためです。

ジェネリック医薬品の薬価収載

ジェネリック医薬品とは、新薬の特許が切れ、他の製薬企業も同じ成分の医薬品を製造できるようになった医薬品のことです。ジェネリック医薬品は、新薬における有効性や安全性などに基づいて開発されるため、開発費を抑えることができ、新薬と同等の効果を有し、かつ新薬に比べ低価格で製造することができます。
なお、薬価制度においては、ジェネリック医薬品を「後発医薬品」と呼ぶのに対し、最初に開発された新薬を「先発医薬品」と呼びます。
ジェネリック医薬品の薬価は、先発医薬品の薬価によって定められます。ジェネリック医薬品が初めて薬価基準に収載される時の価格は先発医薬品の約50%とされ、薬価改定で先発医薬品の価格が変わるのと同様にジェネリック医薬品の薬価も改定されます。

国によって異なる薬価制度

日本では、国民皆保険制度により、国民は公的医療保険で保障されています。そのおかげで、私たちは公平な医療を受けることができ、世界最高レベルの平均寿命と保健医療水準を実現しています。この保険医療に使用できる医薬品とその価格を定める制度が、薬価制度です。
これに対し、薬価制度のない諸外国は、製薬企業が医薬品の価格を定める自由価格制度となっています。製薬企業が価格を定め多くの利益を得られるようになると、数千億円とも言われる莫大な費用がかかる新薬の研究開発に取り組みやすくなります。患者さんの立場から考えた場合、新薬を使用できるようになり、治療の選択肢が増えることにつながります。
一方で、自由価格制度においては、それまで低価格であった薬が何倍にも高くなった事例や、薬が高額なため治療が受けられない事例などが発生し、問題視されています。自由価格制度は、負担する医療費が高くなることで治療を受ける患者さんが減少し、結果として製薬企業にとっての不利益につながりかねません。
しかしながら、薬価制度にも問題点はあります。

薬価制度が私たちの生活に与える影響

薬価改定の見直しについて

2013年度に40兆円を突破した年間国民医療費は、人口動態最大である団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年を控え、更に増大し続けると言われています。国は、ジェネリック医薬品の普及やセルフメディケーションの推進などの医療費抑制のために対策を行っていますが、効果は十分でなく、このままでは国民皆保険制度の存続も危ぶまれる状況です。
そこで、新たな対策として薬価を毎年改定する案が検討されようとしています。これまで2年毎に行われていた薬価改定を1年毎にすることで、薬価を引き下げる回数を増やし、医療費を抑制することが狙いです。
しかし、薬価改定の調査にかえってコストがかかる点や、製薬企業における新薬研究開発のイノベーションを萎縮させるという問題などが指摘されており、今後の議論の行方が注目されます。

イノベーションの評価について

薬価の引き下げは、国の医療費抑制や国民の医療費負担の軽減にもつながる反面、製薬企業の利益が減少し新薬の研究開発が難しくなってしまう問題があります。
例えば、C型肝炎治療薬「ソバルディ」は、2015年に画期的な新薬として発売され、それまで長期間の治療が必要だったC型肝炎が12週間でほぼ完治できるようになりました。「ソバルディ」は日本でも多く処方され、薬価も高額であったために医療費の高騰を招きましたが、2016年に薬価の引き下げが行われたことにより更に多くの患者さんに使用され、C型肝炎の患者数は減少しました。
「ソバルディ」を発売した製薬企業は、C型肝炎に苦しむ患者さんを減らすという大きな社会貢献を果たしましたが、薬価の引き下げと治療効果による患者数の減少により、「ソバルディ」の売上は大きく減少しました。その影響もあり、国内の医療用医薬品の売上が2017年は7年ぶりに前年を下回ったほどです。つまり、大きな社会貢献を果たしたにも関わらず、イノベーションの評価が十分にされなかったため、製薬企業の利益が縮小する結果になりました。このような事態を避けるために、国は医療費の削減だけではなく、製薬企業の社会貢献を評価した薬価を定める必要があります。

薬価制度の重要性

私たちの生活において健康問題は一番の不安要因といえますが、日本における国民皆保険制度は、公平・平等な医療を提供し、この不安を軽減する役目を担っています。もしも国民皆保険制度を維持できなければ、将来的な健康不安は増大し個々の保有資産を投資から貯蓄へ移行させ、経済の停滞を招く危険性さえあり得ます。
この国民皆保険制度における薬価制度は重要な検討項目のひとつですが、薬の効果に対する評価をはじめ海外との価格の差に至るまで、多くの視点からバランスを取る必要があるため、薬価を定めることは容易ではなく、算定方法やルールについて常に議論が行われています。
私たちが保険医療を受ける際に支払っている薬の価格は、このように複雑な検討を経て定められ、私たちの生活と密接に関係しています。
皆さんも薬価制度の動向に関心を持ってみてはいかがでしょうか。

―参考資料―
厚生労働省「日本の薬価制度について」(2016年6月23日)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11123000-Iyakushokuhinkyoku-Shinsakanrika/0000135596.pdf

厚生労働省「現行の薬価基準制度について」(2016年11月30日)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000144409.pdf

厚生労働省「中央社会保険医療協議会」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo.html?tid=128157

(2018年4月更新)

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