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「ポリファーマシー」

近年、多剤服用や多剤併用を意味する「ポリファーマシー」が注目されています。
複数の医薬品が処方されることは、様々な疾患を抱えている高齢者などにおいて少なくありませんが、ポリファーマシーとは何か?なぜ今、ポリファーマシーが注目されているのか?
今回は、ポリファーマシーについて説明します。

ポリファーマシーとは

ポリファーマシーは、「poly(複数)」+「pharmacy(調剤)」からなる言葉ですが、単純に複数の医薬品を使用している状態を指す言葉ではありません。仮に多くの医薬品を使用していても、患者さんの治療や健康管理に必要な場合は、ポリファーマシーではありません。
しかし、たとえ使用している医薬品が少なくても、医薬品同士の相互作用が疑われる場合、同じ成分の医薬品が重複している場合、使用する理由が明確ではない医薬品が含まれている場合などは、ポリファーマシーの可能性があります。
つまり、ポリファーマシーとは、様々な要因によって「必要以上の医薬品を使用している状態」を指します。

ポリファーマシーの背景

ポリファーマシーが起こる背景として、以下のようなケースが考えられます。
例えば、ある患者さんが整形外科を受診して鎮痛剤が処方された際に、胃への負担を軽減するために一緒に胃薬も処方されることがあります。この患者さんが同時期に他の科を受診して胃薬が処方された場合、状況によってはどちらかの胃薬を減らすことができるかもしれません。
他のケースとしては、使用している薬の副作用と気付かず、その副作用の症状を抑えるため更に薬が処方されることがあります。このようなケースは、副作用を起こしている可能性のある薬を変更することで、副作用の症状を抑えるために処方した薬を減らすことができるかもしれません。
また、処方された薬を正しく使用せずに残してしまうケースもあります。医師は、薬を正しく使用していることを前提として診療を行うため、症状が改善しない原因が薬を正しく使用していないことによる場合でも薬が効いていないと判断し、更に薬を処方してしまうことがあります。このようなケースでは、薬を正しく使用することで、本来必要のない薬を減らすことができるかもしれません。
こうした様々な背景によってポリファーマシーが起こり、場合によっては健康に悪影響を与えかねません。
更に、医薬品の使用量の増加は、医療費増加にもつながります。

ポリファーマシーに対する取り組み

高齢者に対する取り組み

最近は、特に高齢者のポリファーマシーが問題とされています。
その理由として、高齢者は複数の疾患に罹っていることが多く、その分、使用する薬の数が増える傾向にあります。また、加齢に伴い消化吸収や代謝機能が衰えるため、薬の効き目が弱い場合や、逆に強すぎてしまう場合があり、若年者よりも副作用のリスクが高まります。
そのような高齢者に対する処方の指針として、日本老年医学会が10年ぶりにガイドラインを全面改訂し、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を発出しました。これは、特に高齢者に処方されやすい医薬品について、専門医の意見や論文などをもとに推奨される医薬品と中止を考慮すべき医薬品の使用方法をまとめたもので、推奨や中止の根拠、代替薬の例などが記載されています。
また、「ポリファーマシー外来」を設け、医師だけでなく薬剤師、看護師、社会福祉士などの医療スタッフがチームとなり、ポリファーマシーの解決に向けて尽力している医療機関もあります。

減薬への取り組み

薬の効き目の評価が難しい精神科領域では、症状を抑えることを優先して処方することが多いため、症状が安定している間は処方内容を変更せず、症状が悪化した場合は薬の種類や量が増える傾向にあるといわれています。しかし、使用する薬の種類や量に比例して副作用のリスクが上がることが分かり、「減薬」の必要性が認識されるようになってきました。特に抗不安薬や睡眠薬は、筋肉の緊張をゆるめたり平衡感覚に影響を与えたりすることから、高齢者を中心にふらつきや転倒のリスクが問題視されています。
これら減薬をはじめとする医薬品の適正使用に向けた取り組みのひとつとして、日本睡眠学会からは「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」が発出されています。これは、睡眠薬について適正な使用方法と減薬・休薬等を行うための方針を示したもので、睡眠薬を使用する上で頻出する疑問に対し、患者さん向けの解説や医療スタッフ向けの勧告が記載されています。

こうした取り組みに対し、2016年の診療報酬改定において「薬剤総合評価調整管理料」や「薬剤総合評価調整加算」が新たに定められ、使用する医薬品を適正に減らすことが評価されるようになりました。例えば、向精神薬を4種類以上使用していた患者さんが退院時に2種類以上減薬した場合や、抗精神病薬のクロルプロマジン換算値(※)を算出し、その換算値で処方量の見直しや処方薬の切り替えを行うなど、患者さんが使用している医薬品を一定以上減らした場合に算定が可能です。
※クロルプロマジン換算値は、該当医薬品を代表的な抗精神病薬のクロルプロマジンに対する相当量に換算することで、他抗精神病薬に切り替える際の目安を算出できる値です。

残薬管理の取り組み

処方された薬を正しく使用せずに残してしまう「残薬」の発生を防ぐためには、患者さんがどのような薬を持っていて、実際には何をどのように使用しているのか、患者さんと医療スタッフがしっかりと情報を共有する必要があります。
残薬管理の取り組みの例として、「ブラウンバッグ運動」という活動があります。「ブラウンバッグ運動」は米国で始まった運動で、当時茶色の紙袋を使用していたことが命名の由来となっています。この運動は、薬剤師が中心となり、患者さんが日常的に使用している医療用医薬品、OTC医薬品、サプリメントなどを全て持参してもらい相互作用や副作用などを確認するもので、ポリファーマシーの解決にもつながる活動です。

外国における取り組み

米国や欧州においても様々な取り組みが行われており、「Beers Criteria」や「STOPP/START Criteria」という高齢者に対する医薬品の適正使用に関する基準の発出や、「Choosing Wisely」という過剰な医薬品の使用や検査を見直して医療の適正化を目指す国際的なキャンペーンなどが行われています。

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ポリファーマシーの解決に向けて

ポリファーマシーは、単純に医薬品を減らせば解決できるという問題ではなく、処方を行う医師、患者さんと接する機会の多い看護師、薬の専門家としての薬剤師などの医療スタッフが、それぞれの立場から得られた患者さんの情報を共有し、医薬品の適正使用を心がけていくことが必要です。患者さん自身においても、お薬手帳やかかりつけ薬剤師制度を活用し、使用している医薬品について積極的に医療スタッフに相談することがポリファーマシーの解決につながります。
国もポリファーマシーの解決に向けて、お薬手帳の活用推進、診療報酬の改定、かかりつけ薬剤師・薬局制度の導入、地域医療連携の推進など様々な施策を行っており、今年9月に厚生労働省が高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成のワーキンググループの初会合を開催し、高齢者の多剤併用対策に関するガイドラインの作成に向けた検討が始まりました。
ポリファーマシーの解決には医療スタッフ、患者さん、国が一体となって取り組んでいくことが大切だといえるでしょう。

―参考資料―
一般社団法人 日本老年医学会
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20170808_01.pdf

一般社団法人 日本睡眠学会
睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン -出口を見据えた不眠医療マニュアル-
http://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf

厚生労働省 平成28年度診療報酬改定について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000106421.html

厚生労働省 第1回高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ 資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000176446.html

厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第311回)議事次第
個別事項(その4 薬剤使用の適正化等について)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000103301.pdf