スポーツと薬について~「アンチ・ドーピング」~

今年はリオデジャネイロで夏季オリンピックが開催されます。更に、世界で活躍する日本人選手が多くなっているうえ、2020年夏季オリンピックの開催地が東京に決まり、スポーツへの関心が高まっています。
そこで、今回はスポーツに関連する薬の話として、ドーピング防止「アンチ・ドーピング」について説明します。

アンチ・ドーピング活動について

ドーピングとは、スポーツ競技会において良い成績を得るために、薬理的、化学的、物理学的方法によりスポーツ選手の能力を一時的に高める行為であり、スポーツ精神に反することとしてスポーツ界全体で禁止されています。
ドーピングは、「競技者自身の健康を損ねる」、「スポーツのフェアプレー精神に反する」、「薬物の習慣性から社会的な害を及ぼす」ものであり、スポーツ界からドーピングを排除することを目的とするドーピング防止活動(アンチ・ドーピング活動)が行われています。
最近では、ロシア陸上界で組織的なドーピングが行われていたことや、有名女子プロテニス選手のドーピングが大きく報道されました。

まずはじめに、アンチ・ドーピング活動に関わる機関とその規程について説明します。

1.世界アンチ・ドーピング機構(WADA)
世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency:WADA)は、アンチ・ドーピング活動における国際統一機関です。WADAでは、ドーピング防止の規則である世界アンチ・ドーピング規程(World Anti-Doping Code:WADA Code)を発効し、禁止物質や禁止方法を特定した禁止表国際基準 (Prohibited List)に則ってドーピングの対象となる成分や行為を定めています。この禁止表国際基準は、毎年1月1日に更新され、その年の12月31日までが有効期間です。

2. 日本アンチ・ドーピング機構(JADA)
日本アンチ・ドーピング機構(JAPAN Anti-Doping Agency:JADA)は、国内におけるアンチ・ドーピング活動をマネジメントする機関として2001年に設立され、文部科学省と連携し活動を推進しています。
日本アンチ・ドーピング規程 (JAPAN Anti-Doping Code:JAPAN Code、日本規程) は、WADA Codeを遵守しており、世界アンチ・ドーピング・プログラムを推進するため、日本で統一的に適用されるアンチ・ドーピング規則です。
更に、JADAは公益社団法人日本薬剤師会と連携し、「公認スポーツファーマシスト」制度を発足しています。医薬品の服用に際して適切なアドバイスを提供できる「スポーツファーマシスト」は、禁止物質の把握など最新のドーピング防止に関する知識を学んだ薬剤師の認定制度で、2015年4月1日現在で6,359名が認定されています。国民体育大会(国体)では開催地都道府県の薬剤師会が中心となりアンチ・ドーピング活動を行っており、2015年の開催県だった和歌山県薬剤師会では、ドーピングに関するWebサイトを開き相談を受け付けていました。これら日本薬剤師会との連携は、フィールドを越え、お互いのエキスパティーズを最大限に共有することを試みた世界初のコラボレーションの事例として注目を集めています。
また、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けては、ドーピング対策に関する法整備を検討していると文部科学相が明らかにしています。

アンチ・ドーピング活動は、国際レベルの競技会だけではなく、国内の大会でも行われています。現在では学生やジュニアの大会にいたるまで、ドーピングに関する情報提供や指導が実施されています。
では次に、アンチ・ドーピング活動について説明します。

ドーピング検査について

検査通告を受けた競技者は、立ち合い人の元で尿検査を行い、禁止物質を摂取していないことを証明します。血液検査で確認することもあります。
禁止物質や禁止方法は、世界アンチ・ドーピング規程の禁止表国際基準 (Prohibited List) として、毎年1月1日に更新され、次のように分類されています。

1. 常に禁止される物質と方法[競技会(時)および競技会外]
2. 競技会(時)に禁止される物質と方法
3. 特定競技において禁止される物質

※競技会(時)とは、「国際競技連盟または該当する競技大会の所轄組織の規則に別段の定めがない限り、競技者が参加する予定の競技会の12時間前に開始され、当該競技会及び競技会に関係する検体採取過程の終了まで」の期間をいいます。

1.常に禁止される物質と方法[競技会(時)および競技会外]
競技会の時だけではなく、常に禁止されている物質及び方法です。
一部の競技者は、「自らの居場所を4半期ごと」に届け出なければならず、常に居住場所にて抜き打ち検査に応じなければなりません。
筋肉増強などの作用のある蛋白同化薬や摂取した禁止物質を排泄する作用のある利尿薬などが、禁止物質の対象となっています。

2.競技会(時)に禁止される物質と方法
競技会(時)に摂取が禁止されている物質及び方法です。
興奮薬や麻薬などが禁止物質の対象となっています。

3.特定競技において禁止される物質
特定の競技において禁止されている物質です。一部の競技における禁止物質は競技会(時)だけではなく、競技会外においても禁止されています。
交感神経を抑制することで心臓の働きを落ち着かせるβ遮断薬は、集中力を高めることにつながることなどから、アーチェリーや自動車などの競技で禁止の対象となっています。

ドーピングに関する注意事例

競技会で良い成績を得るために意図的に禁止物質を摂取する以外にも、医師から処方された医療用医薬品やOTC医薬品に禁止物質が含まれていることを知らずに服用してしまい、意図せずドーピング防止規則違反に該当してしまう場合もあります。日本での規則違反の多くは、この「うっかりドーピング」とされています。
過去に、大会直前に禁止物質を含む“かぜ薬”を服用したため、大会を欠場することになったケースがありました。
総合感冒薬や鼻炎薬など多くのOTC医薬品に含まれている「エフェドリン」、「メチルエフェドリン」や「プソイドエフェドリン」などは、「2.競技会(時)に禁止される物質と方法」の興奮薬として定義されています。また、医薬品の成分欄には、「エフェドリン」ではなく「マオウ」という生薬の名前で記載されている場合があるので注意が必要です。
禁止物質は、成分が特定して発表されている場合と代表例として発表されている場合があり、医薬品に禁止物質が含まれているか否かは、含有されている成分を1つずつ確認する必要があります。
更に、毎年禁止物質と方法が更新され新しく禁止物質が追加されることがあるため、常に最新の情報を確認する必要もあります。今まで服用していて問題がなかった医薬品が新たに禁止物質に指定されたためにドーピングの対象となる場合もあります。前述した有名女子プロテニス選手も、常用していた医薬品に含まれる”メルドニウム”という成分が、2016年に「1.常に禁止される物質と方法」のホルモン調節薬及び代謝調節薬に追加されたことを認識せず服用を続けていたことにより、2016年1月のドーピング検査で違反と認定されました。

ドーピング防止規則違反をしないために

ここまでは摂取してはいけない禁止物質について説明してきましたが、ドーピング防止規則違反を気にするあまり必要な医薬品を服用しないことで体調が悪くなってしまう場合もあります。
医薬品が競技者の治療に本当に必要な場合には、申請(治療使用特例:TUE)を行うことにより、禁止物質の対象となっている医薬品による治療を受けることができます。
競技者は、意図せずドーピングの対象となる医薬品が存在することを認識したうえで治療を受けることが必要です。
現在、競技者が誤ってドーピング対象の医薬品を服用しないために、Webサイトや各都道府県の薬剤師会などを通じて、薬剤師が医薬品の相談などに対応しています。
更に、いくつかのWebサイトでは、医薬品の含有成分が禁止物質に該当するかを検索できるサービスを提供しており、ドーピング対象の医薬品であるか否かを調べることができます。
このように、競技者、その関係者、専門家である医師や薬剤師などが協力し、競技者が服用する医薬品や受ける治療について適切に判断し、ベストな状況でスポーツをすることができる環境作りが大切といえるでしょう。

―参考資料―
南山堂医学大辞典 南山堂
日本アンチ・ドーピング規程
世界アンチ・ドーピング規程禁止表国際基準
公益財団法人日本オリンピック委員会(http://www.joc.or.jp/training/anti_doping/)
公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(http://www.playtruejapan.org/)
文部科学省(http://www.mext.go.jp/
一般社団法人和歌山県薬剤師会(http://www.wpa.or.jp/

(2016年4月更新)

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