薬の効く仕組み~「パーキンソン病にもインフルエンザにも効く薬」『アマンタジン』~

医薬品が体内で効果を示す仕組みは多種多様ですが、1種類の医薬品が単一の働きをするとは限らず、「ひとつの薬なのに、まるで異なる疾患に効く薬」があります。今回は、「脳の疾患であるパーキンソン病」と「感染症であるインフルエンザ」という、全く関係のなさそうな疾患に対して効果を示すアマンタジン塩酸塩(商品名:シンメトレルなど)について説明します。

アマンタジン塩酸塩の効能・効果

アマンタジン塩酸塩は、次の3つの効能・効果を持ちます。
1.パーキンソン病(パーキンソン症候群)
2.脳梗塞後の意欲・自発性低下の改善
3.A型インフルエンザ感染症
まずはこの3つについて、疾患の特徴や症状を説明します。

1.パーキンソン病(症候群)
パーキンソン病は、脳の中の黒質ニューロンという神経細胞が変質することにより脳内物質であるドパミンの量が減少し、運動機能を始めとする様々な機能障害をもたらす疾患です。ドパミンには神経細胞間の信号を伝達する作用があるので、減少すると脳からの指令がうまく伝わらなくなり、主に運動機能に関連した症状を引き起こします。
代表的な症状としては、手足の震えや筋肉の硬直、動作が緩慢になる、体のバランスがとりにくくなるなどが挙げられます。
根本的な原因は未だ完全な解明に至っていませんが、加齢や環境が危険因子となることがあり、日本では70歳以上の100人に1人が罹患しているとも言われています。また、脳炎、頭部への外傷や医薬品の副作用などによって同じような症状が起こることがあり、そのような場合はパーキンソン症候群と呼んでいます。

2.脳梗塞後の意欲・自発性低下の改善
脳梗塞とは、脳に血液を送る動脈が細くなったり詰まったりして、血液の流れが滞る疾患です。動脈を流れる血液は脳に酸素やブドウ糖などを供給しているので、脳梗塞が起きた部位は栄養を与えられずダメージを受け、後遺症へとつながるおそれがあります。
脳は部位ごとにそれぞれ特有の機能を持っているため、梗塞が起きた部位によってその影響も様々です。運動機能を司る部位に梗塞が起きれば運動障害が、言語機能を司る部位に起きれば言語障害が後遺症となる可能性があります。同じように、感情を司る大脳辺縁系と呼ばれる部位で梗塞が起きた場合、感情のコントロールが難しくなり、うつの症状が出たり意欲の低下が起きたりすることがあります。このような感情障害は、脳梗塞を起こした後のリハビリの妨げになるおそれがあります。

3.A型インフルエンザ感染症
インフルエンザ感染症は、インフルエンザウイルスが体内に侵入することにより起こる肺と気道の感染症です。悪寒から始まり、頭痛、咳、鼻水、発熱や全身のだるさなど風邪に似た症状も多いですが、重症になると肺炎や脳症を引き起こし死に至る場合もあります。

アマンタジン塩酸塩の効く仕組み

1.パーキンソン病(症候群)に対して
アマンタジン塩酸塩がパーキンソン病に効く仕組みは、次のように考えられています。
前述の通り、パーキンソン病では脳内のドパミンが通常に比べ減少しています。医薬品による治療としては、不足しているドパミンを補充したり、ドパミンが分解されるのを抑えたりするなど複数の方法がありますが、アマンタジン塩酸塩の場合は、ドパミンを含んでいる黒質ニューロンの末端からのドパミン放出を促進します。また、ドパミンが黒質ニューロンの末端へ戻るのを抑える(再取り込み抑制)作用も併せ持ちます。これらの作用により、細胞と細胞の間のドパミンが増え、症状を改善します。ドパミンを効率よく利用する仕組みなので、脳内にある程度の量のドパミンが残っていると考えられる軽症例に用いたり、ドパミンを補充する医薬品と共に用いたりします。

パーキンソン病への機序

2.脳梗塞後の意欲・自発性低下に対して
アマンタジン塩酸塩は、ドパミンの他に、神経伝達物質であるノルアドレナリンやセロトニンに対しても作用することがわかっています。ドパミンとノルアドレナリンはやる気・意欲に関わり、セロトニンは両者をコントロールする働きがあるので、これらの物質の量を適切にすることにより、意欲・自発性低下に対して効果を示します。

3.A型インフルエンザ感染症に対して
インフルエンザに作用する仕組みは医薬品によって様々(※)ですが、アマンタジン塩酸塩の場合は、A型インフルエンザウイルスに存在する「M2蛋白」という種類の蛋白構造に作用し、「脱殻」というウイルスの増殖過程を阻害することにより効果を発揮します。脱殻を阻止されたウイルスは増殖することができないので、インフルエンザの悪化を抑えることができます。
※:詳しくは薬の効く仕組み~「インフルエンザ」~をご参照ください。

インフルエンザへの機序

このように、それぞれの疾患に対して医薬品の作用する部位は異なり、同じ脳に起きている症状でも、効果を示す仕組みは同じではないことがわかります。

パーキンソン病にもインフルエンザにも用いられるようになった経緯

アマンタジン塩酸塩は、もともと抗ウイルス剤として米国で1959年に開発され、A型インフルエンザに対して用いられていた医薬品です。パーキンソン病への効果が発見されたきっかけは、パーキンソン病の持病がある患者さんにインフルエンザの治療としてアマンタジン塩酸塩を使用したところ、手足の震えなどの症状にも改善がみられたことでした。脳梗塞後の意欲・自発性低下に対して用いられるようになったのは更に後で、初めから複数の効果を持たせようと開発されたのではなく、偶然の発見によってそのことが知られていったわけです。
一方、日本では1975年にパーキンソン病治療薬として発売され、1987年に脳梗塞後の意欲・自発性低下に対しても用いられるようになりましたが、A型インフルエンザに対しては長らく用いられませんでした。1997年に新型のA型インフルエンザウイルスが発見され世界的な大流行が危ぶまれたことから、翌年よりA型インフルエンザに対してアマンタジン塩酸塩が用いられるようになりました。

効能・効果による使い方の違い

同じ成分でも、目的とする効果によって用法・用量(使用する量や回数、期間など)は異なります。効果を示す仕組みが異なるので、ある意味当然と言えるかもしれません。そのため、実際に使用する患者さんと処方や服薬指導を行う医師・薬剤師などとの間に認識の違いがあると、本来の用法通りに医薬品を使用することができず、適切な効果が得られなかったり、思わぬ副作用が生じたりすることが考えられます。病院や薬局では、このようなことがないようにそれぞれの患者さんに合わせた用法・用量で医薬品を提供するため何重にも確認を行っていますが、受け取る際はよく説明を聞くことが大切です。また、説明が、「おかしいな」「わからないな」と思うことがあった場合は、必ず医師・薬剤師に確認し、正しく医薬品を使用できるよう理解を深めることでより良い治療へとつながります。

複数の効果を持つその他の医薬品

全く異なる疾患に対して効果を持つ医薬品は、他にも存在します。アマンタジン塩酸塩の効果が「偶然発見された」ことを考えると、この先更に意外なものが増えていくかもしれません。

医薬品名 カッコ()内は商品名 効果を示す疾患
デュロキセチン塩酸塩
(サインバルタ:内服薬)
うつ病 神経痛
アスピリン
(アスピリンなど:内服薬)
鎮痛作用 抗血小板(血を固まりにくくする)作用
メキシレチン塩酸塩
(メキシチールなど:内服薬、注射薬)
不整脈 糖尿病由来の痛みやしびれ
など

次回は、デュロキセチンが異なる疾患に効く仕組みについて説明します。

―参考資料―
シンメトレル添付文書(2015年3月改訂;第17版)
シンメトレルインタビューフォーム(2015年3月;改訂第4版)
メルクマニュアル第18版
メルクマニュアル医学百科 家庭版
医療薬学Ⅰ病態と薬物治療(1)-神経・内分泌・循環器
脳神経疾患ビジュアルブック
パーキンソン.jp(http://www.parkinson.jp/index.html
Minds医療情報サービス(http://minds.jcqhc.or.jp/n/

(2015年4月更新)

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