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「うつ病にも痛みにも効く薬」『デュロキセチン』

医薬品が体内で効果を示す仕組みは多種多様ですが、1種類の医薬品が単一の働きをするとは限らず、「ひとつの薬なのに、まるで異なる疾患に効く薬」があります。前回は、「脳の疾患であるパーキンソン病」と「感染症であるインフルエンザ」に対して効果を示すアマンタジン塩酸塩(商品名:シンメトレルなど)を紹介しましたが、今回は、「うつ病・うつ状態」と「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」、「線維筋痛症に伴う疼痛」に対して効果を示すデュロキセチン塩酸塩(商品名:サインバルタ)について説明します。

デュロキセチン塩酸塩の効能・効果

デュロキセチン塩酸塩は、次の3つの効能・効果を持ちます。

  1. うつ病・うつ状態
  2. 糖尿病性神経障害に伴う疼痛
  3. 線維筋痛症に伴う疼痛

まずはこの3つについて、疾患の特徴や症状を説明します。

1. うつ病・うつ状態
日常生活の中で、悲しいことやストレスが重なると、気持ちが沈んで元気が出なくなるということがあります。しかし、多くの場合、たとえ気分が落ち込んだとしても、何か楽しいことがあれば気が紛れたり、時間が経ってストレスの原因が解消されると、自然に気が晴れてくるものです。このように、病的ではないうつ状態は一時的なもので時間の経過とともに自然に回復しますが、病的なうつ状態は、物事に対する関心や取り組む意欲が失せて、何もする気が起こらない状態が長期にわたって持続した状態をいいます。また、眠れない、食欲がないなどの身体的な症状が現れることがあり、落ち込むなどの精神的な症状は目立たずに、身体的な症状が主な症状として現れることもあります。

2. 痛み
1). 糖尿病性神経障害
「糖尿病性神経障害」とは、糖尿病が原因で末梢神経に起こる障害のことをいいます。糖尿病性神経障害の典型的な初期症状は、両足の裏のしびれです。進行すると、手足にヒリヒリする痛みや焼けつくような痛み、太ももの筋肉に痛みを伴う筋力の低下がみられるようになります。

2). 線維筋痛症
「線維筋痛症」とは、体の広い範囲で起こる痛みやこわばりに加えて、不眠や疲労などの症状を伴う疾患です。発症の原因は不明ですが、けがや手術といった外的な要因と、身体的・精神的ストレスといった内的な要因が発症の引き金となることもあるとされています。

デュロキセチン塩酸塩の効く仕組み

ここでは、「うつ病・うつ状態」と「痛み」の2つに分けて、デュロキセチン塩酸塩の効く仕組みを説明します。

1. うつ病・うつ状態
私たちの思考や行動には多数の神経が関わっています。神経が次の神経に様々な神経伝達物質を渡すことで、思考や行動に関する情報(シグナル)が伝えられていきます。神経の端には、神経伝達物質を出す穴と受け取る口(受容体(レセプター))があり、そこでキャッチボールのようなやり取りが行われます。神経伝達物質のうち、不安や無気力の発生に関わっているのが脳内の「セロトニン」と「ノルアドレナリン」です。セロトニンの増加は不安を和らげ気分を楽にし、ノルアドレナリンの増加は意欲を高めます。うつ病・うつ状態は、このセロトニンとノルアドレナリンの受け渡しが不足することにより情報伝達がうまく行えず、不安や無気力になる状態と考えられています。これらの症状は、セロトニンとノルアドレナリンを薬で補うことにより改善することができます。

神経から放出されたセロトニンとノルアドレナリンはすべてが次の神経に渡されるわけではなく、神経伝達物質を渡す神経と受け取る神経の間に漂い、再び元の神経(神経伝達物質を渡す神経)に戻ることがあります。デュロキセチン塩酸塩は、セロトニンとノルアドレナリンが次の神経に渡されず再び元の神経に戻るのを抑える働きがあります。この働きを「再取り込み阻害」と呼びます。デュロキセチン塩酸塩は、セロトニンとノルアドレナリンを再取り込みする部位だけをターゲットにして結合し、再取り込みを阻害することで、神経伝達物質を渡す神経と受け取る神経の間のセロトニンとノルアドレナリンの濃度を高めます。これにより、セロトニンとノルアドレナリンが次の神経に取り込まれる量が増加するので、うつ病・うつ状態を改善することができます。

2. 痛み
「痛み」は、侵害性(けがなど)、神経障害性、心因性に分類されますが、痛みが発生すると、痛みの情報(シグナル)が神経を通じて脊髄から脳へと伝えられ、痛みの部位やその強さを認識します。つまり、痛みは脳で感じるのです。
痛みを伝える神経がある一方で、脊髄から脳への痛みの伝達を抑制する「下行性疼痛抑制系神経」と呼ばれる痛みを抑える神経があります。この下行性疼痛抑制系神経の働きは、セロトニンとノルアドレナリンによって活性化されることがわかっています。そして、慢性的な痛みの原因のひとつとして、セロトニンとノルアドレナリンの機能低下やバランス異常が考えられています。つまり、セロトニンとノルアドレナリンで下行性疼痛抑制系神経を活性化することができれば、痛みを感じにくくなり鎮痛効果を得ることができます。

下行性疼痛抑制系神経を介して痛みを抑える仕組みに関わるセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みをデュロキセチン塩酸塩が阻害することにより、下行性疼痛抑制系神経の働きを高め、痛みの伝達を抑制し、痛みを改善します。

このように、「うつ病・うつ状態」と「痛み」にはセロトニンとノルアドレナリンという同じ神経伝達物質が関わっていますが、関わる神経によって異なる働きをしています。デュロキセチン塩酸塩は、役割の異なるそれぞれの神経で効果を発揮することができるため、複数の疾患に対して効果を示すことができます。

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効能・効果による使い方の違い

ひとつで複数の効果を持つ医薬品の場合、目的とする効果によって使い方などが異なることがあります。医師や薬剤師は、患者さんの症状に合った適切な用法・用量で医薬品をお渡しし服薬指導を行っているので、受け取る際はよく説明を聞くことが大切です。もしも分からないことがあった場合は、必ず医師や薬剤師に確認し、医薬品を正しく理解して使用することが良い治療へとつながります。

―参考資料―
サインバルタ添付文書(2015年5月改訂;第8版)
サインバルタインタビューフォーム(2015年5月改訂;改訂第7版)
メルクマニュアル第18版
メルクマニュアル医学百科 家庭版
メンタルナビ(http://www.mental-navi.net/index.html
Minds医療情報サービス(http://minds.jcqhc.or.jp/n/