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20年ぶりに添付文書記載要領改正 何が変わった?

医療用医薬品添付文書の記載要領が1997年以来約20年ぶりに改正され、2019年4月1日より新記載要領が施行されました。
今回は、記載要領改正のポイントを紹介します。

記載要領改正の背景

改正の主な背景は以下の3点です。
・医療技術やIT技術の進歩、高齢化など医療を取り巻く環境の変化。
・2008年から2013年に実施された、厚生労働科学研究における記載要領改正案の提言。
・2010年の「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」における、添付文書への最新知見の反映や迅速な添付文書内容周知のための情報提供手段活用の提言。

3点目の提言では、血液製剤の投与によりC型肝炎の感染被害が起こった薬害肝炎事件の検証と再発防止策を講じるための検討委員会において、「添付文書は、薬事法※上作成が義務付けられた、製薬企業が最新の知見を医療現場に情報伝達する最も基本的で重要な文書である」ものの、「医療現場に対する注意喚起の機能を十分に果たしていない」と評価されています。
つまり、添付文書は最も基本的で重要な公的文書であるにもかかわらず、その機能を十分に果たしていないと述べられたのです。
このような状況から、より現代社会に沿った内容に変更すると共に、より分かりやすく、活用しやすくするために、今回の改正が実施されました。
※:2014年11月25日より「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(略称:医薬品医療機器等法)」に改正

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記載要領の変更点

それでは、今回の改正の主なポイントを紹介していきます。

① 「原則禁忌」、「慎重投与」の廃止
② 「特定の背景を有する患者に関する注意」の新設
③ 項目の通し番号の設定
④ 薬物動態、臨床成績、薬効薬理のデータを詳細に記載
⑤ 後発医薬品の添付文書における情報提供の充実

① 「原則禁忌」、「慎重投与」の廃止

旧記載要領における「原則禁忌」、「慎重投与」の項目は、“原則”や“慎重”という表現の曖昧さから、医師や薬剤師における解釈に個人差が大きく、そのあり方が議論されてきました。
実際に、2008年から2010年に実施された厚生労働科学研究の大規模調査では、医師・薬剤師ともに「『原則禁忌』は『禁忌』と同等」とする回答と、「『原則禁忌』は『慎重投与』・『併用注意』と同等」とする回答がそれぞれ半数になるという結果が出ています。
添付文書の意図する内容を正確に伝えるため、今回の改正でこれらの項目は廃止されることになりました。

新記載要領では、「原則禁忌」の内容は「2. 禁忌」、または「9. 特定の背景を有する患者に関する注意」などの項目へ移行となります。「慎重投与」についても内容に応じて「9. 特定の背景を有する患者に関する注意」などの項目に記載されることになります。
なお、「2. 禁忌」の項目への移行が妥当と判断された「原則禁忌」については、医薬品医療機器総合機構(PMDA)より、「使用上の注意の改訂指示」が発出された上で、新・旧どちらの記載要領の添付文書においても「禁忌」の項目に記載されます。

② 「特定の背景を有する患者に関する注意」の新設

禁忌を除く特定の背景を有する患者への注意を集約するために、「9. 特定の背景を有する患者に関する注意」の項目が新設されました。
この項目には、中項目として「9.4 生殖能を有する者」、「9.5 妊婦」、「9.6 授乳婦」、「9.7 小児等」、「9.8 高齢者」が新設され、これまで「使用上の注意」中の項目であった「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」、「小児等への投与」、「高齢者への投与」の内容が記載されます。
さらに、「9.2 腎機能障害患者」、「9.3 肝機能障害患者」が新設され、腎機能障害や肝機能障害に関する情報はこの項目に集約されることになりました。

③ 項目の通し番号の設定

それぞれの項目に通し番号が設定されました。該当がない場合は欠番となり、項番の繰上げはされません。
「1. 警告」以降の記載項目及び記載順序は、以下の通りになります。

1. 警告
2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)
3. 組成・性状
3.1 組成
3.2 製剤の性状
4. 効能又は効果
5. 効能又は効果に関連する注意
6. 用法及び用量
7. 用法及び用量に関連する注意
8. 重要な基本的注意
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.2 腎機能障害患者
9.3 肝機能障害患者
9.4 生殖能を有する者
9.5 妊婦
9.6 授乳婦
9.7 小児等
9.8 高齢者
10. 相互作用
10.1 併用禁忌(併用しないこと)
10.2 併用注意(併用に注意すること)
11. 副作用
11.1 重大な副作用
11.2 その他の副作用
12. 臨床検査結果に及ぼす影響
13. 過量投与
14. 適用上の注意
15. その他の注意
15.1 臨床使用に基づく情報
15.2 非臨床試験に基づく情報
16. 薬物動態
16.1 血中濃度
16.2 吸収
16.3 分布
16.4 代謝
16.5 排泄
16.6 特定の背景を有する患者
16.7 薬物相互作用
16.8 その他
17. 臨床成績
17.1 有効性及び安全性に関する試験
17.2 製造販売後調査等
17.3 その他
18. 薬効薬理
18.1 作用機序
19. 有効成分に関する理化学的知見
20. 取扱い上の注意
21. 承認条件
22. 包装
23. 主要文献
24. 文献請求先及び問い合わせ先
25. 保険給付上の注意
26. 製造販売業者等

また、ワクチン類やトキソイド類等については、以下のとおり医療用医薬品添付文書記載要領を読み替えて記載する等の対応を行うこととされています。

医療用医薬品添付文書記載要領ワクチン類等での記載要領
2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)2. 接種不適当者(予防接種を受けることが適当でない者)
3. 組成・性状
3.1 組成
3.2 製剤の性状
3. 製法の概要及び組成・性状
3.1 製法の概要
3.2 組成
3.3 製剤の性状
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.2 腎機能障害患者
9.3 肝機能障害患者
9. 特定の背景を有する者に関する注意
9.1 接種要注意者(接種の判断を行うに際し、注意を要する者)
9.2 腎機能障害を有する者
9.3 肝機能障害を有する者
11. 副作用
11.1 重大な副作用
11.2 その他の副作用
11. 副反応
11.1 重大な副反応
11.2 その他の副反応
13. 過量投与13. 過量接種

④ 薬物動態、臨床成績、薬効薬理データを詳細に記載

今回の改正では、例えば血中濃度や吸収等の情報を「16. 薬物動態」の項目において、それぞれ「16.1 血中濃度」、「16.2 吸収」、「16.3 分布」の各項目に明記することが求められるなど、薬物動態や臨床成績、薬効薬理データをより明確・正確に記載するよう求めています。

⑤ 後発医薬品の添付文書における情報提供の充実

旧記載要領における添付文書では、先発医薬品と後発医薬品で「使用上の注意」や「取扱い上の注意」の記載が異なることがありましたが、今回の改正により、後発品の「使用上の注意」や「取扱い上の注意」の情報は、原則として先発医薬品と同一にすることとされました。
また、必要に応じて先発医薬品の「17. 臨床成績」を修正せずに引用することとされ、後発医薬品の添付文書における情報の充実が図られる改正となっています。

記載要領改正の注意点

今回の改正には5年間の経過措置期間が設けられており、2024年3月31日までは新旧両方の記載要領の添付文書が共存します。
2019年9月時点では、約20,000件ある医療用医薬品のうち、PMDAのwebサイトに新記載要領の添付文書が掲載されているのは、まだ200件程です。
2019年4月以降、厚生労働省が発出する医薬品添付文書の「使用上の注意の改訂指示」や、日本製薬団体連合会がとりまとめている「DSU(DRUG SAFETY UPDATE:医薬品安全対策情報)」では、医薬品によって新旧記載要領のいずれか、または双方についての措置内容が示されるようになっています。
同じ成分の医薬品でも記載要領の新旧で読み取れる情報に差が生じる可能性がありますので、医療用医薬品の情報を確認する際は、その添付文書が新旧どちらの記載要領にもとづくものなのかを意識した上で確認する必要があります。

―参考資料―
2010年4月28日薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)
2017年6月8日薬生発0608第1号 医療用医薬品の添付文書等の記載要領について(局長通知)
医薬品・医療機器等安全性情報 No.344
2017年12月27日薬生発1227第7号 ワクチン類等の添付文書等の記載要領について
2017年12月27日薬生発1227第10号 添付文書等における「製法の概要」の項の記載について