日本の医療制度において、医療用医薬品の薬価基準削除は、医薬品が保険適用から外れることを意味します。この記事では薬価基準削除と経過措置について解説します。
薬価基準削除とは
薬価基準削除とは、具体的には医薬品が公定価格(薬価)付きで保険適用される「薬価基準」から正式に除外されることを指します。製薬企業からの申請に基づき、厚生労働省が必要に応じて関係学会の意見を聴取し、中医協で報告後、告示を改正して削除を実施します。
医薬品が薬価基準から削除される理由には、製薬企業による販売中止や商品名変更が挙げられます。販売中止の場合、当該商品は経過措置期間を経て市場から完全に撤退します。商品名変更の場合は、同じ成分でYJコードが異なる新名称の医薬品が流通し、一定期間で旧名称品と入れ替わっていきます。商品名変更の理由には、医薬品が元の販売会社から別の販売会社に承継される場合や、医薬品同士の名称が類似していることによる取り違え防止目的などがあります。商品名変更品の旧名称の医薬品は販売が中止されます。
経過措置とは
経過措置とは、制度や規制の変更が行われる際に、突然の変化による混乱や影響を避けるために一時的に旧制度や旧規制を継続する措置を指します。
医薬品の薬価基準削除が決定された場合、患者と医療機関の双方に大きな影響を与えるため、一定期間の経過措置が設けられます。この期間中に、すでに市場に流通している医薬品の在庫が使用され、医療現場は新しい治療法や代替薬にスムーズに移行できるようになります。
薬価基準からの削除は3月末または9月末が指定され、経過措置の告示日からそれまでの数か月間が経過措置期間として設定されます。一度告示された経過措置期限が延長されることもあり、この場合は改めて経過措置が告示されます。
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削除時の告示品と非告示品、薬価未収載品の違い
医薬品が販売中止になる場合、同じ薬価基準収載品でも告示品と非告示品では動きが異なります。
薬価基準に商品名で収載される告示品は、薬価基準からの削除およびその経過措置期限は官報で告示され、公的に周知されます。名称変更の場合、告示品は新しい商品名で改めて薬価収載が告示されます。
一方、薬価基準に統一名で収載される統一名収載の個々の非告示品が販売中止になる場合には、次の二つのパターンがあります。
- 全ての非告示品が販売中止になる場合
ある統一名に対応する全ての非告示品が販売中止等により市場に存在しなくなる場合、統一名の経過措置が官報で告示され、告示品と同様に、保険が適用されなくなるまでの期限が明確に示されます。 - 一部の非告示品が販売中止になる場合
ある統一名に対応する非告示品のうちのいずれかが販売中止になり、他の非告示品は継続して販売される場合、官報による経過措置の告示はありません。製薬企業からは事前に販売中止の案内が公開されるため、在庫消尽まで一定の期間が確保されます。
なお、製薬企業による医薬品販売中止の案内等では、非告示品についても「経過措置」という表現が用いられることがあります。
発毛薬、性機能障害改善薬、経口避妊薬などの生活改善薬や、ワクチン類などは、薬価基準に収載されない「薬価未収載品」のため、販売中止に関しても告示はありません。
なお、薬価基準には収載されず、診療報酬上の保険使用が認められる「使用医薬品」については、告示品と同様に官報で経過措置期限が告示されます。
※告示品と非告示品について詳しくは「銘柄別収載品と統一名収載品の関係」を、薬価未収載品については「医薬品の薬価と保険適用の関係」をご参照ください。
まとめ
薬価基準からの削除は、日本の医療制度において重要なプロセスであり、患者や市場への影響を最小限に抑えるために、通常経過措置が設けられます。告示品と非告示品の販売中止には異なる対応が必要ですが、どちらの場合も患者の安全と治療の継続性を確保するための配慮が行われます。医薬品情報を取り扱う際は、これらの措置を理解し、適切に対応することが求められます。
―参考資料―
厚生労働省 薬価削除等手続きの明確化について(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001505625.pdf)